シャッターが閉まっている為、機械音以外は静かな営業室で声が響き渡る。
今は忙しいから、自分で要綱・通達(マニュアル)でまずは確認して、それでもわからないところがあれば質問して。
新人には“要綱を読め”が合言葉のように今日も飛び交っている。
まさか最近流行っている○○してみたシリーズで、家を買ったというネタ?はたまた銀行行ってみた、住宅ローンが通るか相談してみたというネタ!?
疑心暗鬼と混乱は続く。
数日後、事前に約束した時間にきっかりと来店。
今度は奥様もご一緒だ。
物件の資料は揃っているし、確定申告書も3期分ある。
直近の所得は確かに480万円だが、前年、前々年は少し低い。
直近3期分の所得で平均した数字を基準の所得とします。
前回お聞きした3,200万円ご希望する場合、審査金利で計算すると僅かながら月々140千円を超えてしまいます。
前回のご来店時に説明出来ず申し訳ございませんでした。
やっと事業が軌道に乗ったので、これを機に家を買って手狭のアパートを出たかったんですよ。
ちょうど妻の実家近くに売り物件が出たので、このタイミングを逃したくないんですよね。
将来、介護が必要になったときに動けるようにしたいんです。
(住宅購入にかける思いは本物。審査項目とは直接関係ない背景でも、担当者に熱意が伝わることで話がスムーズにいくこともある)
例えば、借入額を3,100万円にすれば、入口の要件を満たします。
しかし、この場合、奥様は連帯保証人に入って頂くことになります。
今やITの時代。
デフォルト(返済が不可能な状態)する可能性は、申込人のプロフィールデータを入力すれば、簡単に結果が出ます。
さすがにyoutuberとしてのデフォルト率は出ませんが、個人事業主だったりメディア系業種としての判断結果は出ます。
この物語はフィクションですが、希望金額満額で承認。金利も最優遇を適用。
ポイントは、自己資金があったのでフルローンではなかったこと、家を転々と引っ越しせずに一ヶ所に長く住んでいたこと、奥様に収入があって余力があったこと等が恐らくプラス作用したのだろう。
なぜ、だろうなのか。
審査会社が判断した回答で、銀行にいちいちフィードバックをしない為である。
…ガラガラガシャーン。
15時になったので、シャッターが閉まった音である。
彼女の勝負は15時のシャッターが閉まった後に始まるのだ。
おわり